AZZURRO
それから
クリスの宮に戻った一行


雪乃は
色々な考えを巡らせていたが

誘拐の疲労と
睡眠不足には敵わず

正午を迎える頃
眠りに就いた



雪乃の姿を確認しに来たクリスは
その無垢な寝顔にそっと触れる


異世界から来た
信頼も
温もりも知らない
生きるしかばねの様な娘…


初めてこの世界に来た夜は
頬を涙で濡らしていた


そっと
頬をなでる


いまでは
桃色に染まる頬に涙の跡はない


この世界で
ユキノは生きる喜びを
見つけてくれたのだろうか?


その笑顔の裏に
何も隠していないだろうか?


愛おしい娘


幾度となく危険な目に会っても
必ず私の腕の中に帰ってくる娘


誰よりも何よりも愛おしく
大切に思うのに


その命を危険にさらしていたのは
義姉上だとは…


クリスの表情が
悔しさにゆがむ


この事実を知っても
ユキノは傍にいてくれるのだろうか?


不安な思いを抱えたまま

クリスは
雪乃の部屋を後にした

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