差別

「あなた、わたしの後ろに机を持ってこないで！」
　彼女はクラスの中でも優秀な子で少し威圧感があったので、仕方が無く廊下側の列の後ろに机を持っていった。しばらくすると熊坂先生ではなく、校長先生が教室に入って来られてお話が始まった。
「今日は、皆さんの担任の熊坂先生は、急用が出来て帰えられました。」
今日は終業式なので授業は無く、皆は運動場に出て式典は終った。その後、教室で熊坂先生の事を坂口君や栗田君と田中君が話していた。
「オイ、熊坂先生が居なくなるんだって！」
「俺達が校長室の前を通ったら、聞こえてきたよ。」
田中君はクラスで一番の優秀な男の子で、自分から噂話などはしなかったので、今日も聞き役側になっていた。
「へえ、でも急だね？」
「嫌がらせが、バレたからさ。」
「きっと校長先生に知られて、クビになったんだ。」
「身無五と徐に対して、ひどかったろう。」
「徐は今日も、来なかったし。」
「今日なんか、机が無かったからな！」
「オイ、やめよう、」
　坂口君は、悠太が近くに居る事に気が付いたらしく、話を途中で打ち切ってしまった。確かに、「徐　美姫」は今日の終業式に姿を見せていない、その事で彼女の父親から学校に電話があったのは、中岡校長先生が言っていたので間違いはないだろう。彼女が言っていた、父ちゃんに叩かれる事は何ともかわいそうだった。学校に行っても、熊坂先生の嫌がらせや虐めにあいながら、学校に通うのは苦痛だっただろう。父親に相談してもまともには、取り合ってくれないだろうし、その狭間で彼女の苦悩は計り知れないと思った。小学校一年生が、計り知れない壁に遭遇し、民族差別と言う悲しいエゴイズムに、彼女の心はズタズタにされたに違いない。