差別

悠太は「徐　美姫」の話で、「身無五」という言葉をまたしても聞いた、それは熊坂先生に言われた言葉だ。
あの日の悠太は、その日の夕飯の時に家族に帰宅が遅くなった理由と、熊坂先生から言われた「身無五」の事も話したら、家族の反応が意外なものだったので、悠太はその後「身無五」の事は触れなくなってしまった。
「先生に、身無五だっていわれた、身無五って何なの？」
　悠太の問いかけに、父の種雄が怒ったように言い放った後、姉の亜津子が悠太の行動に厳しい口調で迫ってきた。
「悠太！誰がそげんこと言うたとか！！？」
「悠太！あんたがポサ－としとうけん、言われるったい！！」
　姉の亜津子の言い方は、悠太にすべての非を押し付けるような物腰だ、その場の雰囲気は一瞬凍りついたような時間だった。
　悠太は「身無五」の意味は、子供ながらに知ってはいたが、自分が言われる訳が理解できなかった。目の前に両親の父の種雄と母のハツがいる、親がいる子供を「身無五」とは言わない、自分の事では無いのだろう、何かの間違いに違いないと思っていた。
　ただ、女の人が時おり悠太に会いに来る。しかも近所の家に遊びに行った時に会った。その時の事は、ただならぬ様子だった為に、誰にも話してはいなかった。

　３学期が始まると、教室に中岡校長先生が現われて授業は、はじまった。
　校長先生が教壇に立つと、授業と言ってもお話が長くて、教科書を開くような内容ではない。
「今学期から、熊坂先生の後任の先生が決まるまで、校長先生が授業をします。」
「きょうは、初日ですから教科書の事は話しません。ですから教科書を閉じてください。」
　校長先生のお話は、１時限目の時間で終ってしまって、２時限目からは自習の時間になった。お昼の給食の後は、もう下校しなさいと言われて、その日の授業が終ってしまった。
「今日の授業はここまでにします。」
「明日は教頭先生が来られますので、そのつもりでいてください。」
「早いですが、もう下校しても構いませんが、他の教室は授業をしているので静かに帰りましょう」
　中岡校長先生がそう言うと、児童の皆はそれに従たがい静かに教室をあとにした。翌日の教頭先生は、教室に入るなり自習を告げるとそのまま教員室に消えてしまった。