冬の足跡
「…へ?」
と、間抜けな声を出して、上を見る。
「…紀龍。」
真琴がそう呟く。
「…話せよ。俺が連れてくわ。」
「は。いやいいから。」
教室は、さっきからシンと静まったまま。
「真琴…いいから。」
そうつぶやいた私の顔を覗き込んで、真琴は言うんだ。
「…なんで?」
なんでって言われても、答えようがない。
「別に理由ないし。」
ひねくれたように、そう言い返す。
「……なんで。」
お願いだから、そんな目をしないで?
お願いだから、私の目を見ないで?
お願いだから、その優しい声で語りかけないで?
お願いだから、その手を離して?
お願いだから、お願いだから……。
「…いい加減、離してよ。」
真琴は、目を見開いて、それからゆっくりと、私の手を離した。
「ごめん…。」
そんな事、言わないでよ。
私が悪いのに。
私のせいなのに。
真琴は悪くないのに。
真琴は心配してくれただけでしょ?
自分が言ったことなのに、胸が苦しくなる。
「ごめんな。」
もう一度そう言って、あなたは私の頭を撫でようと、頭の上に手を乗せようとする。
…でもその前に、あなたは手を下すんだ。

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