アネモネ
(彰SIDE)
「ご、ごめんなさ‥、‥っ」
目の前で頭を下げているのは、見間違えるはずもない紫音の姿。
久しぶりに見た顔は泣き顔。
2人して黙ったために出来た沈黙は、
なんとも痛くて、痛くて。
でも、時間だけが過ぎただけで、実際は紫音のことを少ししか知らない俺には、どうすることも出来なかった。
「紫音‥?」
ただ名前を呼ぶだけしか、
「紫音、大丈夫?」
無意味に言葉を吐き出すことしか、
『呼ばないでください、名前』
出来なかったんだ。
「いつかのベッドの彼女にでも、その優しい声で名前呼んであげてください。」
眉間に皺を寄せて、
涙を零れ落ちる寸前まで溜めて、
光のない目で俺を見る紫音を見て、思った。
何も言わない紫音に甘えすぎた、と。
どれほど我慢させたんだろう、と。
俺は気付くのが遅かった、と。
俺は紫音が本気で好きなんだ、と。
「もう、好きじゃない?」
そう言った俺に紫音は急にボロボロと涙を零しながら、言ったんだ。
そんなのこっちの台詞だ、と。
_