声の王子様 ①
volume.01 危険なボイス
エレベーターの扉が開いた
途端、「どうしてよ」と詰め寄る女性の声が響いた。
無意識に一度、英単語を書いた
カードから顔を上げてしまい
不本意にも視界に入れてしまった。
マンションの玄関灯が幾つか
点いているために、
女性の姿も、ついでにその部屋が隣だという事もはっきり分かる。
痴話喧嘩なら部屋の中か
どこか余所ですればいいのにとは思うけれど。
だからと言って
私には全く関係がない。
気まずくなる程、隣の人とは
交流もなければ顔を合わせた事も数える程度だ。
確か季節も関係なく大きな
マスクをしていたような気がするけれど、どうだったか。
< 1 / 15 >