声の王子様 ①
背を向け、女性に向き直った
隣人の男は襟足に掛かる後ろ
髪を一度だけ撫でながら口を開く。
「君がオトナの女だって言うならさ、もう分かるだろ。オレはもう二度と君を部屋に入れるつもりはないし、やり直す気なんてねぇよ。全く。全然」
「………厳しいのね」
呟いた小さな声が僅かに
震えた気がした。
そんな女性を前に、小首を
傾げるような仕草を見せて
「知らなかった?」と、こともなげに。
………何なの。一体。
別れ話しに決着が付きそうだって事は分かった。
理解出来ないのは、私という
存在ただ一つ。
隣人の男は私に 「ちょっと付き合って」と言った。
何故。
何故、無関係の私が付き合わなければならないのか。
揉め事など見ていても
何の足しにもならないむしろ無駄。