声の王子様 ①



それなのに私は動けない。


何故か。


………声だ。


この男の声が、声の破壊力といったら一体何なの。



「もういいわ。分かった。この状況じゃ自分が惨めだわ」



大体このキラキラと眩しい
光は何なの。


ファンタジーじゃあるまいし
こんな事、
現実では有り得ない。


自分では気付いていないだけで疲れているのかもしれない。


顎に手を当て考え込んでいると
視線を感じ、ふと正面を見れば女性がこちらを見据えている。


数秒じっと見詰められ、不意に肩をすくめた相手は、



「泣かされないようにね。彼女さん」



とだけ言い残し背を向けた。


カツカツとヒールの音が響き
やがて完全に聞こえなくなった頃、深い溜め息を溢したのは目の前の人物。



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