声の王子様 ①
私はと言えば、次から次へと
理解出来ない言葉ばかりで頭が混乱してきた。
「はぁー疲れたぁ。………あー、っと、ごめんね」
言いながら振り返り、視線を私の後方へとさまよわせるとすぐ戻してきて。
「高梨さん」
ああ、表札を見てたのか。
「あれ? 大丈夫?
何か―――」
その後に続く言葉は永遠に
分からない。
だって、近付き、顔を覗き込んでこようとしたから思わず。
本能が、危険だと判断した男を突き飛ばし、
驚いている間に玄関のドアを開け中に飛び込んだ。
鍵を閉めチェーンまでして。
―――危険だ。
あの男は危険な気がする。
それだけは十分
分かった。
顔を合わせる事なんて滅多に
ないからそう気に留める事もないだろうけれど。
だけどその思いは意外と早く
打ち砕かれる事になるのだ。