学生さん
 正門は早い時間帯に大学関係者が開けてくれていたので、助かった。
 

 あたしは院生という身なのだが、半分は美智香たち助手と一緒に研究している。


 共同発表の論文こそまだなかったのだが、将来的にはそこまで行くつもりでいた。


 美智香は専攻がイギリス文学だが、あたしのようにアメリカ文学を専門としている人間とも普通に話が合う。


 どっちにしてもマニアの世界だ。


 河西もアメリカ文学専門で、よくテレビやネットでオンエアーされる教養番組などにも出演している。


 あたしはこれから先、河西に付いていかないといけない。


 目の前にいる謙太は大学でのマニアックな講義に絶望するようにして、せっかく入った院を修士の半ばで中退してしまった。


 だけど彼はどう考えても、研究などに向くタイプじゃない。


 どちらかと言うと、やはり文学作品を読み込むよりも書くことの方に力を注ぎたいようだった。


 あたしもそんな謙太の気持ちが痛いほど分かる。
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