学生さん
 彼が院中退というある種の挫折の経験もした上で、これから先生きる道を選ぶとき、文芸というものを選択したのは賢いと思う。


 元々、謙太は院で英語の研究を続ける気はなかったようだ。


 開告大文学部の大学院もそこそこレベルは高いのだが、彼には合わなかったということだろう。


 そしてあたしは謙太が作品を書き続ける決意でいることが、手に取るように分かった。


 彼は必ず専業作家になるつもりでいるようで、今から原稿を書き溜めているらしい。


 それはあたしと話をしたりすれば、その会話上で出てくる。


 あたしは謙太と付き合いながら、いろんなことを考えていた。


 あたし自身、修士課程を出たら、次は博士課程である。


 毎日カサ研に詰めていて、別にこれといった違和感はない。


 むしろ研究に没頭できている自分がいるのが分かり、安心していた。


 あたしは相変わらず河西のお手伝いをしていたし、助手である美智香たちとも同じ研究室で過ごす。

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