学生さん
 あたしは今回の発表内容をそのまま来年提出の修士論文に反映させるつもりでいた。


 幸い、涼しい秋風が吹き付ける頃で、長袖シャツのスーツでも暑くはない。


 夏も終わりだからだ。


 すでに後期の授業は始まっている。


 連日、遅くまでカサ研に詰め、資料収集を怠らない。


 研究は至難の道である。


 あたしはそういったことを覚悟の上でこの世界に入ってきた。


 東都大の院に進めるぐらい実力のあったあたしが、なぜ開告大の院を選んだのかは、河西や浩太、美智香など、文学部の関係者だったら誰もが知っている。


 東都大の院に進学すれば、東京での大都会生活が待っているし、謙太を放り出すことにもなりかねない。


 あたし自身、いくら院を中退した恋人でも遠慮なしに付き合える仲だから、あえて彼を選んだのだ。


 それに田舎の大学の方が何かと研究しやすい。

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