学生さん
「君も疲れただろ?今夜はゆっくりお酒でも飲みなさい」


 河西がそう言って、あたしにシャンパンを一本用意してくれていた。 


 もちろん年代物などではなく、普通に去年寝かせた酒で、一本当たり三千円ぐらいの安物だったが……。


 だけど、あたしは教授たちから労(ねぎら)ってもらって嬉しかった。


 これから先、あたしはここ開告大で研究畑を歩むことになると思う。


 浩太や美智香たち助手の様子も欠かさず見ているので、苦労することは分かっていたのだが……。


「そういえば大岩君が来てたな。後ろの方の席で君の発表の様子をじっと見てたよ。彼も作家志望みたいだから大変だろうとは思うがね」


 河西がふっと洩(も)らした一言で、あたしは酔いが醒めてしまう。


 そして急いでパーティー会場を出、学内を回ってみた。


 さっきまで人間が多数いた講堂の真ん前に、謙太が立っている。


 こっちを見つめていた。

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