学生さん
 半年後の二〇一二年四月、あたしは修士の一年を終えて二年生になった。


 河西は、


「富岡君、君には期待してるよ」


 と常に言う。


 あたし自身、怖いぐらい順調に研究が進んでいた。


 そして謙太は公募していた日本ミステリー文学大賞の最終選考まで残り、残念ながら受賞には至らなかった。


 ただ、賞を主催する出版社側が、健闘した謙太に審査員特別賞を送ったのだ。


 謙太は初めて書いた作品で、栄(は)えある賞を手にした。


 まあ、準グランプリというやつだが……。


 大賞を射止めた女性作家は遅筆家(ちひつか)らしい。


 謙太はすぐに受賞後第一作となる四百五十枚のミステリーを書いて、出版社に入稿したのだった。


 おそらく書き溜めていた分を出して、実力を世に問うたのだろう。
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