学生さん
 謙太のような貪欲(どんよく)な作家が一番出世しやすい。


 出版不況で、出版社サイドは紙だろうが電子だろうが、とにかく作家の原稿を欲しがるのだ。


 あたしもそういった内情は一通り知っていた。


 謙太は一冬越し、作家として着実に力を付けてきている。


 あたしも院に入って二年目になり、今年の十二月末までに修士論文を出さないといけない。


 テーマは決めてある。


 やはり実用英語に関して、一考察を試みるというものだった。


 あたしが桜が満開の四月のとある日の昼に、お昼ご飯を買うため、正門から出ていこうとすると、謙太が来て、


「澪」


 とあたしを名前で呼ぶ。


「ああ、久しぶり。……特別賞受賞おめでとう」

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