学生さん
 直木賞は作家にとって単なる通過点に過ぎない。


 もらえれば、今後の作家活動が保証されるというだけだ。


 売れっ子になるにはまだまだ書かないといけない。


 実際、芥川賞や直木賞などをもらっていない作家でも、売れている作家は吐いて捨てるほどいる。


 それが現実なのだった。


 だけど、もし謙太が直木賞を獲ったら、今よりも更に出世するだろう。


 全ては何気ないところから始まったのだ。


 あたしたちは同じ開告大文学部にいて、大学院まで入ったものの、あたしは研究畑を選び、彼の方は中退して作家に転進した。


 互いに離れた時間があったのは否(いな)めない事実だ。


 でも愛を育み、揃って歩み続けたことは紛れもなく、一組のカップルの立派な付き合い方だった。


 あたしは今、それを痛感している。

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