学生さん
 あたしは今年度は研究に精を出すつもりでいた。


 もちろん謙太とも変わらず付き合うのだが……。
 

 院にいれば、当然ながら教授や准教授などのお手伝いが必要で、あたしも上の人間たちの著作や論文などを代筆したりすることがある。


 別にこんなことは今に始まったものじゃない。


 何かと講義が忙しかったり、テレビやラジオなどに出演したりする研究者は毎日慌しいのが実態だ。


 そういった人たちの代わりに、あたしたち院生や、先輩である助手、助教などが執筆を引き受けたりすることがある。


 確かに学術論文などは出る部数が少なかったのだし、あたしもそこら辺りのことは考えながら書いていた。


 河西教授の場合もそうで、河西が予(あらかじ)め、あたしたちにアイディアなどを伝えてくれればそれに沿って執筆する。


 学問の世界は一見して聞こえがいいようで、実はいろんなことがまかり通っていた。


 あたしはそんなことばかりを考え続けながら、日々研究にまい進している。

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