学生さん
 これから先、整った格好をすることはほとんどないものと思われる。
 

 あたし自身、研究生活を続けたいと承知の上で、大学に残ることを考えていた。


 大学における研究生活というのは、まずは上の人間たちのお手伝いからだ。


 ポストが上がれば上がるほど、自分の研究時間が大切になる。


 何せ講師クラスになれば、講義などを受け持たないといけないのだし……。


 あたしは大学の研究者が特にスーツなどを着て学校に出てくるとは聞いたことがない。


 大抵、略服でよかった。


 今は院の修士の一年生だが、順当に博士まで行って五年後には、一体今の自分がどうなっているのだろうかと心配になる。
 

 だけどそれは取り越し苦労なのかもしれない。


 将来のことは分からないのだから……。


 それにあたしが頭の中であれこれ考えている以上にこの世界は複雑だ。


 謙太が院での研究生活を半ば投げ出すようにして、小説の執筆に没頭し始めたのも分からないわけじゃない。
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