学生さん
 どこかに行くということは、おそらく気持ちを切り替えるためだろう。


 謙太があたしのケータイに連絡してきたのはその日の午前九時前で、時間は十分あった。


 あたしはいつもよりも多めに日焼け止めを擦り込み、日焼けしないよう心がける。


 まあ、この蒸し暑さなら、日焼け止めを多めに塗っても効かないだろうと思われたのだが……。


 約束の午前十時に彼があたしのマンションの前まで来た。


 外で自転車を停めてキーをロックし、チェーンを掛けて部屋のベルを鳴らす。


 あたしが出てきて、


「準備できてるわ。行きましょ」


 と言い、マンション付属の駐輪場まで歩いていって、停めていた自転車に跨った。


 二人で並び、走り出す。


 あたしたちは海に向け、自転車を併走させた。


 走らせながらも、謙太は息が全然上がらない。

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