magnet


見たところ帰る様子はまだなさそうなので隣に座ってみる。


「何聴いてたの」


「先輩も聴きますか?」


「わっ!」


問いかけて、問いかられて。その返事をする前に大きなヘッドフォンを装着してくる。


重量があって重いけれど、それでも流れてきた音楽に耳を傾けた。


「……あれ?これって……」


と言ったつもりが自分の声がイマイチ聞こえない。オマケに目の前で口を動かしている朔の声も聞こえない。


なるほど、これだけ音が遮断されると聞こえないわけだ。と納得し、ヘッドフォンを外した。


「これってさ。二、三年前に流行ったやつじゃないの?」


ひたすら物の類いに疎い私ですら知っている位だ。


「知らないんですか?これ、最近カバーされたやつなんですよ。この歌好きなんです」


「ふーん」


やっぱり私は疎いらしい。チラッと朔を見れば少し哀愁を帯びた目をしていた。

「帰りましょうか」


……気のせいか。









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