magnet


あり得ない。そうじゃない。


たまたまの事で、私が気にするような事じゃない。


なのに振り払うかのように繋いでいた手を離した。


「え……?先輩?」


驚きの声が聞こえて、同様の表情も伺える。


違う。繋がりなんてない。


不安を安心にしたくて口を開こうも言葉に出来ない。代わりに違う言葉が出た。


「……帰るね。また……」


明日。それすらも言えずに走った。


後ろから朔の声が聞こえた気がしたけれど止まれなかった。止まりたくなかった。


いつからこんなに弱くなったのだろう。こんなに弱かっただろうか。


……そうじゃない。


いつだって私は何かが自分の嫌な方向に変わりそうになれば、逃げる事を選択するしか出来ない。


嫌な思い、したくないから。


なんて自分勝手で、ずるいのだろう。




< 141 / 215 >

この作品をシェア

pagetop