magnet
あり得ない。そうじゃない。
たまたまの事で、私が気にするような事じゃない。
なのに振り払うかのように繋いでいた手を離した。
「え……?先輩?」
驚きの声が聞こえて、同様の表情も伺える。
違う。繋がりなんてない。
不安を安心にしたくて口を開こうも言葉に出来ない。代わりに違う言葉が出た。
「……帰るね。また……」
明日。それすらも言えずに走った。
後ろから朔の声が聞こえた気がしたけれど止まれなかった。止まりたくなかった。
いつからこんなに弱くなったのだろう。こんなに弱かっただろうか。
……そうじゃない。
いつだって私は何かが自分の嫌な方向に変わりそうになれば、逃げる事を選択するしか出来ない。
嫌な思い、したくないから。
なんて自分勝手で、ずるいのだろう。