magnet


動きを止めても距離は縮まる。いつかものように。


「……おはよ」


「おはようございます。ちょっといいですか?」


「あぁ……うん。愛架先行ってて」


もう愛架は何かを察しているみたいに、一度私と朔を交互に見てから歩いて行った。それを見計らったように開かれる。


「何で、携帯に出ないんですか?」


「切ってたから」


「それは分かってるんですけど、話したかったのに切られてると困るんです」


「……っ」


口を開き掛けて閉じた。


言いたい事を何一つとして言えない。そんな自分に腹が立つ。


ギリッと歯をくいしばっていると言葉が降り注いだ。


「――何もないから」


「え?」


「昨日の人とは先輩が心配するような関係はないです」


違う。そんな言葉を待っていたわけじゃなかった。




< 146 / 215 >

この作品をシェア

pagetop