magnet
動きを止めても距離は縮まる。いつかものように。
「……おはよ」
「おはようございます。ちょっといいですか?」
「あぁ……うん。愛架先行ってて」
もう愛架は何かを察しているみたいに、一度私と朔を交互に見てから歩いて行った。それを見計らったように開かれる。
「何で、携帯に出ないんですか?」
「切ってたから」
「それは分かってるんですけど、話したかったのに切られてると困るんです」
「……っ」
口を開き掛けて閉じた。
言いたい事を何一つとして言えない。そんな自分に腹が立つ。
ギリッと歯をくいしばっていると言葉が降り注いだ。
「――何もないから」
「え?」
「昨日の人とは先輩が心配するような関係はないです」
違う。そんな言葉を待っていたわけじゃなかった。