magnet


心当たり通り、財布は美術室にあった。安心した事に先生が保管してくれていた。


美術の授業費用とか何とかで渡すお金を持っていくのに財布ごと持っていっていたのだ。


「相原さんは意外とうっかりさんなのね」


フフッと笑って渡されたけど、財布を忘れるなんてうっかりじゃ済まされない気がする。


何はともあれ。お礼を言って頭を下げ、美術室を後にした。


再び足を早めて正門へと向かおうとしたとき、自然現象のように足が止まった。


「……っ」


たとえば。


この日財布を忘れなかったら。忘れた事に気づかなかったら。


いつも通り、いつものように帰っていたら。


違う方向に物事が進んでいたのだろうか。


そんな事を本気で思ってしまった。


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