magnet
戻りたくない。でも戻らなきゃと言い聞かせ、重い足を引きずるようにして正門へと向かう。
もう居なくなっていてほしい。
その願いは届くはずないのだけれど。
「……」
声が音となって聞こえてくるから、掠れた声で掻き消そうと声を掛けた。
「……朔」
「あ、財布。ちゃんとありました?」
「うん。美術室にあった」
チラリと見れば、この間と打って変わって私を見つめている彼女。余裕そうにニッコリと笑っている。
その人は?と聞こうとしたとき、先手を打たれた。
「ねぇ。少し時間をもらってもいい?私と話をしないかしら?」