magnet
――
いつもの定位置で膝を抱え、膝に顔を埋めて座っていた。そう、愛架の部屋で。通常通り目の前にはオレンジジュースが置かれている。
だけど、一滴たりとも減っていない。運ばれた時のままだった。
「心菜は馬鹿だね……」
頭を撫でる手は止まらず、ずっと撫で続けられている。
「泣いても、いいよ?」
「何それ。泣くわけないよ」
「気丈に振る舞わなくてもいいよ。私はずっと心菜の味方なんだから」
愛架はいつでもお見通しで、分かってくれて、私は何を返せるのだろうと思ってしまう。
愛架のような人間になりたいとさえ思った事がある。
それくらい人と接するのが上手くて、話上手。私とは正反対だった。
そういう風に出来たらこんな気持ちにならなかったのだろうか。