大江戸恋愛記
そういえば、美形さんもおばあさんも着物だな。
今の時代に珍しい………あれ。段々違和感を感じてきた。
着物、そして江戸。
…いやいやまさか。
「…あの」
「なんじゃ」
「今、西暦何年か分かります?」
「ああ…慶応3年じゃな」
「……!」
ああ、私は夢を見てるのか。
「おい、何をしておる頬なんか抓って。別嬪が台無しになるぞ」
私の顔なんかどうだっていい。綺麗でも何でもないんだから。
…それにしても痛かった、普通に痛かった。
「はあ…」
「どうした溜め息なんか吐いて」
そりゃ吐きたくもなりますよ…
「…それにしてもお前さんは本当に不思議じゃ。奇抜な格好、立ち振る舞い、まるでここの人間じゃないようだな」
そう、この時代の人間じゃないんですよ!
ていうか本当に本当にあの江戸時代なの?このおばあさん、嘘ついてるだけじゃないの?
「……お前、まさか」
「…?」
突然おばあさんが真剣な顔をして私を見つめてきた。どうしたんだろう…?
問いかけようとした時、突如とんでもなく大きい音が辺りに響いた。
ドォォオン、ドオォォン
「え、何?この音…」
「…まずい、死妖(しよう)が出たな」
「シヨウ、って何ですか?」
「死んだ人間の魂を食らって大きくなる、まぁなんだ。妖怪みたいなものだ」
「はぁ!?妖怪って…嘘でしょ?」
「嘘じゃない。あれを見よ」