大江戸恋愛記
「おい!紫苑、何処へ…っ!」
私は真っ先に子供の元へと走り出していた。
死妖というのが死人の魂を食って大きくなるのなら、力のない子供を襲って魂を食らうのが手軽だろう。
幸いにもまだ怪物は起き上がっていない。
私と子供まであと少しの距離。
これなら連れて逃げれる。
そう思ったのに。
「!」
起き上がっていなかった怪物が腕だけを振り上げたのだ。
私は腕を目一杯伸ばして子供を覆うように抱きしめた。
駄目だ、殺される…っ!
ぎゅっと目を閉じた。
―…いつまで経っても痛みは来なかった。意識もある。
私はゆっくりと目を開いた。
私の目の前に誰かがいる。
誰だろう。後ろ姿に見覚えが……
遠のいていく意識の中で、私はその姿を目に焼き付けていた。