大江戸恋愛記
「何処から、と言いますと…」
「おぬしは先刻、東京、と言ったな。寝ている間に調べさせてもらった」
私は上手く声が出せなくて、ただただ梅ばぁちゃんの言葉を待つだけだった。
「東京という国は………ここには無かった」
私は、言葉を返せなかった。
東京が、ない。
さっき梅ばぁちゃんに、場所を聞いた。江戸だと言われた。
西暦も聞いた。慶応3年だと言われた。
それなりの違和感やおかしさは分かっていた。分かっていたはずなのに、
ここは、現代では、ない。
その戸惑いや恐怖が一気にのしかかってきて、私は息が詰まりそうになった。
「…紫苑?」
「………はい」
何も言えなくて、私は重い返事しか出来なかった。
涙は出ない。ただ、絶望しか感じることが出来ない。
そんな私に、梅ばぁちゃんは僅かに恐る恐る、尋ねてきた。
その言葉に、私は絶句させられた。
「紫苑、おぬしは………ミライから、来たのか?」