大江戸恋愛記
は…はい…?
煙の中に人影がうっすらと見えて、私は思わず固まってしまった。
も、もしかして…野盗が襲ってきた…!?
私は突然のことに身動きが取れなくて唖然としていたけど、梅ばぁちゃんのことを思い出した。
梅ばぁちゃんが襲われたら危ない…!
そう思ってバッと梅ばぁちゃんの方を向いた。
あれ…?何か、怒ってる…?
梅ばぁちゃんが今にも人を殺してしまいそうなほどワナワナとしているのを見て、私は表情が固まった。
てっきり怯えてるかと……
そして次の瞬間、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「ババァ、腹へった」
この声、もしかして……
私は梅ばぁちゃんから視線を外し、再び入り口の方を向いた。
そこにいたのは―……
「凛テメェごらぁ!!何度言ったら分かるんだい!扉を壊すなとあれほど…」
「あーあーうっせぇな、癖なんだから仕方ねぇだろ」
「その癖を直せっつってんだよクソガキ!!!」
…な、何この状況は……
梅ばぁちゃんと、美形さんが取っ組み合いになりそうなほどの雰囲気を放っている。
「……はっ」
つい考え込んでしまった。
再び二人を見ると、「表へ出ろクソガキ」「今日こそはぶちのめしてやるクソババァ」
とかなんとか言っているのが聞こえて、慌てて二人の元に駆け寄った。
「ちょっ…待って、待って下さい!」
「「あぁ?」」
「ひっ!」
二人の凶悪面が向けられて私は思わず悲鳴を上げてしまった。
きっと、この時の私はムンクばりの姿だったと思う。