大江戸恋愛記

凛という男




私は今





「うう……」








絶賛迷子中でございます。






家を飛び出してきたはいいけど、ここが何処だか分からなかった。


綺麗だったから私が最初にいた森だとは分かったんだけど、何しろ暗くなり始めている森の中は分かりにくいし、怖い。




「暗くてよく分からないなぁ…」


梅ばぁちゃんに懐中電灯貰ってくればよかった。


「…あ、この時代にそれはないか」


なんて独り言を漏らして気を紛らわそうとしても、風で葉が揺れる音が一層恐怖心を煽って私は走り出した。




「もう嫌だ…っなんか出そうだし…何処にいんのよアイツ………あ」



がむしゃらに走り続けると、目の前にとてつもなく大きい一本の木が見えた。


「ここは…」



そう、私が最初にいた木の場所だった。

何故か知らないけど、その木だけ微かに輝いて見える。


暗闇に映える輝く木に立ち止まって、思わず息を飲んだ。



「すごい……」



私はその木にゆっくりと近付いていった。

と、近付くにつれて覚えのある匂いが鼻を掠めた。



≪この時期外れの金木犀(きんもくせい)の香り……≫



さっき梅ばぁちゃんとアイツが取っ組み合いをしていた時に強く感じたこの香りは…









「…ここにいるの?」



サワ、と葉が揺れた音がしたのは風のせいかもしれない。


でもこの香りは、アイツのものだと思う。


見上げても、高くて葉の中は見えない。

でも、いることを信じて私は声を発した。






「…さっきは、ごめんなさい」

自然を伏せて、感情を込めて言葉を放つ。


「ここからは私の独り言だけど、…よかったら聞いてほしい」


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