短編小説集*イベント編*
そんな昔のことを思い出して“今の私”は笑った。

それ以来私は短冊に一つの願い事しか書かなくなった。

“康平くんが早く帰ってきますように”

「康平くん…」

「なんか言ったー?」

すでに七夕まつりの笹のところに行っていた優子が私に声をかけた。

「なんでもないよー」

私もそういって笹のもとへかけていった。

私は祭りの屋台を出している知り合いのおじさんに脚立を借りた。

笹の葉の一番高いところに短冊を付けたいから。

毎年決めていた。

一番高い場所に短冊を付けると…

「里奈ー?付いたー?」

「もうちょっと…よし!」

しっかりと短冊を結び付けて私は脚立からおりた。

「毎年付けにくいとこに付けてるけどなんか意味でもあるの?」

「内緒ッ!」

「さっきから内緒ばっか〜」

ちょっと怒った優子が私を追い掛け回した。






家に帰ると私は引き出しから黄色の短冊を取り出した。

もうヨレヨレで色も薄汚れた黄色の短冊。

“あの時”の短冊だ。

地元の七夕まつりの笹は祭りが終わってから一週間後に全ての短冊を捨ててしまう。

彼の願いを捨てたくなくて私は彼の短冊を取った。

彼の短冊を私はながめて笑った。

「ちゃんと待ってるよ…」
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