【短編】5回目のキス


「圭矢!?」

「うおっ」



抱きしめられてたのを離れるのは嫌だけど。

ガシッと圭矢の顔を両手で掴んで、見上げた。


とても哀しそうな顔をして、でも赤くなった頬。
私と合った視線を下に向け、顔を隠そうとする。


それでも離さない両手。


また、圭矢が視線を上げ、絡まった目を見つめて、



「本当はすっごく嫌!
女優さんとの絡みだって、キスシーンだって。
泣いちゃうくらい嫌!

だけどね?

圭矢の仕事だもん。
仕方ないよね?

だから……我慢する。
ってか我慢してるの。

ただ……たまにでいいから、
こうして抱きしめて?

私が圭矢の1番なんだよ。って教えて?」



優しく、でも哀しい笑顔を向けた圭矢。

「辞めて欲しいって言わないの?」



そんな解りきってるセリフなんて言わないで?



「馬鹿! 言わないから。絶対言わない!

圭矢、仕事好きでしょ?
練習だってイッパイしてるじゃない。

私は、どっちの圭矢も好きだから。
だから言わない……言えないよ?」

「雫……」



力なく笑う圭矢に、

「ファンの子に怒られるよ?
圭矢のファンの子の気持ちナメないでよね?」

そう、これは、ファンとしての言葉。


圭矢の彼女としてじゃなく。
ファンとして。

私だって、圭矢のファンの1人なんだから。





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