【短編】5回目のキス
「ラストの……とっ撮った?」
寂しがって欲しいと思う俺と。
寂しがられると困る俺。
「キスシーン?」
俺は、どうしたいのかな。
「うっ、うん」
「……まだだけど」
「そっ、そか」
どうして欲しいんだろう。
「……嫌?」
「えっ?」
「キスシーン。嫌?」
俺から一度逸らした目をまた合わせる。
「ううん。仕事だもん、ね?」
そう笑う雫に『そか』って笑ってみせた。
俺の笑顔が……哀しそうなのに気付いてくれた?
“仕事”って割り切れる雫は、強いよね。
もし、俺が反対の立場だったら……。
ねぇ、雫?
どうして連絡くれないの?
どうして我が儘言わないの?
どうして“好き”って言ってくれなくなったの?
暫くして決まった新しいドラマ。
コンサートもあるし。
合間に他の仕事だってある。
どんどん会えなくなる時間ばかりが増えていく。