【短編】5回目のキス




「満員だってさ」



楽屋の鏡越しに、嬉しそうな陸の笑顔が映る。



「おっ、まじで?」



喜ぶメンバーに俺も笑顔を見せた。



「実は今日、彼女来てるんだよねー」



ニヤッと笑いながら言った陸に皆が群がっていく。



「だから陸、気合入ってんのー?」

「さっきから会場気にし過ぎだってー」



盛り上がるメンバーの輪の中。
それを見ながら思った。


俺は彼女……雫を呼べないな。

気になって歌えないよ。
だから、雫には絶対来ちゃ駄目って言ってあるしね。
陸はすごいな。





スタンバイの声が掛かり、ステージに立った俺達。


1曲目が終わり、会場を見渡した時。





見間違いかと思った。





2階席の1番前にいる女の子は……雫?



何度も何度も見直す俺は、2曲目の途中を間違ってしまったらしい。


でもメンバーから送られる視線も気にならないくらい。

……動揺してしまったんだ。




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