【短編】5回目のキス
「辞めて欲しいって言わないの?」
今なら、本当の事を教えてくれるよね。
もし……今、辞めて欲しいって言われたら俺……
「馬鹿! 言わないから。絶対言わない!
圭矢、仕事好きでしょ?
練習だってイッパイしてるじゃない。
私は、どっちの圭矢も好きだから。
だから言わない……言えないよ?」
「雫……」
そんなところまで見てくれてたんだ。
俺が仕事を好きなのも知ってたの?
言わない……言えない。
それは本音だよね。
なら、俺は辞めたっていいよ?
仕事より、好きな人を取る俺は子供だよね。
でも、それくらい雫が好きなんだ。
「ファンの子に怒られるよ?
圭矢のファンの子の気持ちナメないでよね?」
どうして、そんなに強いの?
もし俺だったら……。
ううん、違うね。
雫だからだ。
俺が好きになった雫だからだよね。
雫には、“選ぶ”なんて選択肢はないんだ。
どっちも。を選ぶんだよね。