届かなくてもあなたが好き
「し、失礼します…」
部屋に入ると、あの橋田純君が椅子に座ってあたしを待っていた。
「こんにちは♪」
優しく笑って右手を差し出す純君。
あ、握手…!!
あたしも慌てて右手を出すと、純君はその大きな手であたしの手を握ってくれた。
挨拶…しなきゃ!
自己紹介と…一言、何か言わなくちゃ…!
頭ではそう思うけど、純君に会えた嬉しさで視界がにじんでくる。
ダメだよ…何も言わないで泣いちゃったら、純君が困っちゃう。
何か…言わなきゃ…。
「こ、これ…!」
花束と手紙を突き出すように渡した。
「ありがとう!嬉しいよ」
純君はそう言って、あたしが大好きな笑顔を見せてくれた。
「あのっ…」
「ん?」
何か言いたいのに、頭がショートしてて言葉が出て来ない。
顔が熱い…。
「だ、大好きです……!」
泣きながらそれだけ言うと、あたしは逃げるように控え室を出た。
バカみたい…。
せっかく会えたのに、目の前にいたのに、あたしは何がしたかったんだろう。
右手に残る純君の温もりが、たまらなく愛しかった。