エルタニン伝奇
「血肉を分けた妹というなら、メリクだろう。・・・・・・メリクには、手出しさせん」

『っ・・・・・・!』

サダクビアが、息を呑んで大きく目を見開いた。
サファイアの瞳が、ゆらりと揺れる。

ラスは宝剣を構えたまま、目を伏せるように視線を落とした。
ラスを見上げるメリクを見る。

不安そうな表情。
ラスの身を案じているのだ。
その気持ちが伝わった途端、ラスの心には、今まで知らなかった感情が芽生える。

---妹---

ラスはメリクと視線を合わせたまま、口角を上げた。
それも一瞬。

目を閉じ、一つ息をつくと、ラスは静かに口を開いた。

「・・・・・・勝負」

濃紺の瞳とサファイアの瞳がぶつかり合った瞬間、ラスの足は地を蹴った。
一切の躊躇のない踏み込みで、サダクビアの間合いに飛び込み、構えた宝剣を突き出す。

『くっ!』

まさかラスに本気で攻撃されるとは思っていなかったのだろう。
サダクビアの反応は、サダルスウドに対する攻撃よりも、数段遅い。
繰り出される刃をかわしつつ飛び退り、サダクビアは最後に大きく飛んで、己が封じられていた氷の柱の窪みに立った。

『兄上・・・・・・! 本気でわらわを滅するおつもりか?』

何ともやりきれないといった表情で、サダクビアが頭上から叫ぶ。
ラスは剣を降ろし、彼女を見上げた。

「俺は本気だ」

サダクビアとは対照的に、ラスは感情のない声で答えた。

『わらわは兄上の、たった一人の妹ですぞ! この身はコアトルなれど、わらわは間違いなく兄上の---ラス・アルハゲの妹姫じゃ! そこな小娘などではない!』

「落ち着け。そんな乱れた気では、到底俺には勝てんぞ」

取り乱すサダクビアを、ラスは低い声で窘めた。
ラスの冷静さが、サダクビアの心を一層かき乱す。
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