エルタニン伝奇
『兄上っ! わらわはずっと、兄上をお慕いしておりましたのに! 危険を冒してまで、氷の封呪を解いたのだって、兄上にお会いしたかったからこそ・・・・・・。わらわには、兄上しかおりませんのに!』
コアトルを取り込んだ身体は順調に成長したようで、見かけは確かに、ラスと同じ、十六ぐらいである。
が、感情のままに訴えるサダクビアは、まるで幼子のようで、なるほど、メリクによく似ている。
そう思い、ラスはふと不思議に思った。
メリクがこんなに、感情を露わにしたことはない。
なのに何故今、メリクに似ているなどと思ったのか。
---幼く、ドジなところかな---
あまり意識してこなかったが、少し思い返してみれば、自分の周りをちょろちょろと駆け回る、小さな気配を常に感じていた。
ラスは顔を上げた。
真っ直ぐに、サダクビアを見る。
その表情は、今まで誰にも見せたことのない、穏やかなものだった。
柔らかく微笑み、ラスは口を開く。
「その気持ちは、おそらくメリクが引き継いでいる。普通に出会っていたら、俺も全力で守っただろう。惜しいことをしたな。変に気を回さず、コアトルと共に帰ってくれば、どんなに呪いだと言われようと、守ってやったのに。お前には最早、憎しみしかない。純粋に俺に会いたいと思ってくれたサダクビアは、コアトルを身代わりにした時点で、メリクになったのだろう。コアトルは賢い奴だ。己が食われることを承知で、‘憎悪’を吸い取ったのさ」
いうなれば、善の部分をメリクに、悪の部分をサダクビアに、というように、コアトルが分けたのだ。
己(おの)が身を犠牲にして。
「お前は憎悪の塊だからな。一度封呪を解いた後で、再びの封印に失敗したときには、もう憎しみしかなかったろう? 俺に会いたいとか、思わなかったはずだ。ただ目の前の、解き放たれたメリクが憎くてしょうがなかった。違うか?」
『そ、そのようなこと・・・・・・。わらわは、本当に兄上を・・・・・・』
動揺しつつ、サダクビアが口ごもる。
コアトルを取り込んだ身体は順調に成長したようで、見かけは確かに、ラスと同じ、十六ぐらいである。
が、感情のままに訴えるサダクビアは、まるで幼子のようで、なるほど、メリクによく似ている。
そう思い、ラスはふと不思議に思った。
メリクがこんなに、感情を露わにしたことはない。
なのに何故今、メリクに似ているなどと思ったのか。
---幼く、ドジなところかな---
あまり意識してこなかったが、少し思い返してみれば、自分の周りをちょろちょろと駆け回る、小さな気配を常に感じていた。
ラスは顔を上げた。
真っ直ぐに、サダクビアを見る。
その表情は、今まで誰にも見せたことのない、穏やかなものだった。
柔らかく微笑み、ラスは口を開く。
「その気持ちは、おそらくメリクが引き継いでいる。普通に出会っていたら、俺も全力で守っただろう。惜しいことをしたな。変に気を回さず、コアトルと共に帰ってくれば、どんなに呪いだと言われようと、守ってやったのに。お前には最早、憎しみしかない。純粋に俺に会いたいと思ってくれたサダクビアは、コアトルを身代わりにした時点で、メリクになったのだろう。コアトルは賢い奴だ。己が食われることを承知で、‘憎悪’を吸い取ったのさ」
いうなれば、善の部分をメリクに、悪の部分をサダクビアに、というように、コアトルが分けたのだ。
己(おの)が身を犠牲にして。
「お前は憎悪の塊だからな。一度封呪を解いた後で、再びの封印に失敗したときには、もう憎しみしかなかったろう? 俺に会いたいとか、思わなかったはずだ。ただ目の前の、解き放たれたメリクが憎くてしょうがなかった。違うか?」
『そ、そのようなこと・・・・・・。わらわは、本当に兄上を・・・・・・』
動揺しつつ、サダクビアが口ごもる。