エルタニン伝奇
ラスは、静かに続ける。

「お前の、俺を慕ってくれているという言葉も、嘘ではないだろう。確かに昔は、そうだったのだろうしな。ただ今は、メリクが傍に帰ってきたからこその、記憶の残骸なだけだよ。安心しな。お前のその気持ちは、メリクで叶えてやる。たった一人の、妹だからな」

『あ、兄上・・・・・・』

サダクビアの目が吊り上がる。
噛みしめた唇は、鋭い牙に食い破られ、血が滲んでいる。

「エルタニンの偉大なる主神、海の神トゥバンよ。そなたより遣わされし王家のコアトルを、今お返し奉る。我が身にかかりし呪いを、闇に落ちし王家の者の血で解き放て」

ラスの言葉に、構えた宝剣のスターサファイアが、光を放った。

『なめるな! わらわは母君の力を継ぎし者! 兄上を喰ろうて、わらわがエルタニンを支配してくれる!』

叫びざま、サダクビアはラスに襲いかかった。
先程までは防戦一方だったが、攻撃に転じたサダクビアは、まさに猛り狂った猛獣の如し。
最早ラスを殺すことに、躊躇いは微塵も見えない。
獣の速さで迫る爪は、人では回避するのは難しい。

「ちっ!」

地を蹴って間一髪避けたつもりが、ラスの頬から血が飛んだ。
後ろに着地したサダクビアは、足がついたかつかないかのうちに、再び攻撃してくる。

最早目視もできない。
気配のみで攻撃を避けるが、ラスの腕といい足といい、身体中から血飛沫が飛ぶ。
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