エルタニン伝奇
「ラス様!」

メリクが半泣きになって駆け寄ろうとするが、その腕をサダルスウドが掴んだ。

「離してください! このままでは、ラス様が・・・・・・」

「お前が来たところで、何になるというのだ」

いつものように冷たい言葉に、メリクは、はっと顔を上げた。
前を向いたまま、ラスは乱暴に頬を流れる血を拭う。

「サダルスウド、メリクを離すな」

「御意」

ラスの命令に頷き、サダルスウドは魔方陣にメリクを引き込んだ。

「サダルスウド様・・・・・・」

魔方陣内は、攻撃は届かないが、術者が出してくれないと、出られもしない。
メリクは涙を浮かべて、魔方陣の壁に取り付いた。

「サダルメリク、これは、儀式なのですよ。サダクビア様は、ラス様自身が倒さねばならぬ。それ故、王のコアトルも、手出しをせぬであろう?」

言われて見れば、ラスのコアトルは、動く気配はない。
しかし長い舌を忙しなく動かしている様子から、もどかしい思いをしているのは伝わってくる。

「心配するでない。私も、サダクビア様を封じた者としての責任がある故、できることでお手伝いしている」

そういうサダルスウドの両手は、胸の前で印を結んでいる。
その手は足元の魔方陣と同じく、淡く発光しているようだ。

「サダクビア様の力を、できるだけ抑える。私の力では知れているが、少しはマシだろう」

「サダクビアの力を?」
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