エルタニン伝奇
メリクは相変わらずラスを嬲るサダクビアを見た。
印を結ぶサダルスウドは、すでに額に汗が浮いているが、サダクビアには大した変化は見られない。

が、いつの間にかサダクビアにも、数カ所の傷がついている。
血まみれのラスとは比べものにならないほどのかすり傷だが、確かにさっきまではなかった。
ふと見ると、傍らのコアトルが、じっとサダクビアを見ている。

---もしかして・・・・・・---

メリクは今にも倒れそうな、サダルスウドの印を結んだ両手を、上から握った。

「サダルスウド様、サダクビアと繋がりが深い者なら、より彼女の力を引っ張れるのではないですか?」

辛そうに目を開けたサダルスウドは、防壁の術とサダクビアに向けている術の同時進行のため、答えることもできないようだが、僅かに頷いた。
おそらくコアトルも、同じことをしているのだ。

「サダルスウド様、サダクビアの力を、こちらに吸い取ります。上手くいくかわかりませんし、こちらがどうなるかもわかりません。サダルスウド様が、制御してください」

サダクビアはコアトルの身体と、元々のメリクの全てである。
コアトルは同種を取り込まれただけだが、メリクとサダクビアは、‘同じ’なのだ。
コアトルがサダクビアの力を引っ張ることができているのなら、メリクはもっと強力に、彼女の力を引き寄せられるはずだ。
何と言っても、同一人物なのだから。

己に危険が及ぶかもしれないが、そんなことは考えなかった。
ただ、ラスを助けたい。
メリクはそれだけを思い、目を閉じた。
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