エルタニン伝奇
一方人間とは思えない攻撃力で迫るサダクビアに手こずるラスは、彼女の攻撃から逃れるだけで、精一杯だ。
何度か一瞬サダクビアの動きが鈍った瞬間に打ち込み、傷はつけたが、大したダメージは与えていない。

---コアトルの身体に、母上の力が加わっているんだものな。これほど厄介な敵も、そうおるまい---

岩をも砕く拳を避け、間髪入れず繰り出される蹴りを宝剣で弾きながら、ラスは冷静に、だがうんざりといったように考えた。
母の力など、どういうものかは知らないし、サダクビアも猛獣のように襲いかかってくるだけで、何らかの術を使っている風はない。
だが、コアトルの身体というだけでも、ただのヒトであるラスには、太刀打ちできない。

今蹴りを弾いたときのように、身体を剣で弾いても、サダクビアの皮膚は、びくともしないのだ。
コアトルの硬い鱗のためなのか、母の力がそこまで加わっているが故のことなのかはわからないが、皮膚を切り裂けないというのは、ラスにとっては致命的だ。
倒すことができないのだから。

反面、サダクビアのほうは、その硬い皮膚でもって、ラスの身体を引き裂いていく。
一見サダクビアは丸腰だが、彼女は全身が凶器のようなものなのだ。

『兄上・・・・・・。そろそろお心を変えられたらどうじゃ? 血を流しておるのは、兄上のほうではありませぬか。わらわもこれ以上、兄上を嬲るのは気が進みませぬ』

一旦動きを止め、サダクビアは悠然と微笑んだ。
己の手についたラスの血に、ゆっくりと舌を這わす。

気が進まぬ、というわりに、その顔は愉悦の表情を浮かべ、目は獲物を嬲る喜びに、ぎらぎらと輝いている。
ラスは口の中の血を吐き出した。
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