エルタニン伝奇
ラスは起き上がって、己の少し上に浮かぶコアトルの顎を撫でた。
甘えるようにコアトルは、元のようにラスの足元に身体を下ろすと、顎を座った彼の膝に置く。
部屋の入り口に立ったまま、巫女はじっとその様子を見つめた。
巫女になる女子(おなご)は、通常トゥバンに選ばれた何らかの印が、身体のどこかにあるという。
産まれた赤子にその印があれば、親はすぐにその子を神殿に託さねばならない。
我が子可愛さに手元に置けば、トゥバンによる天罰があると恐れられているため、親は早々に子供を手放す。
そのため、巫女らは家族というものを知らずに育つのだ。
巫女や神官は、一度神殿に入ってしまえば、生涯独身で過ごさねばならない。
当然一生を神殿の中で終えるのだ。
が、巫女には僅かな希望がある。
新王の即位時、巫女の暮らす聖女宮の中から一人だけ、トゥバンに選ばれし巫女が、王のお側へと上がることが許されるのだ。
王の側に上がったからといって、王妃になれるわけではない。
生涯独身という決まりは、変わらない。
その決まりを破ったのは、ただ一人、ラスの父親である前王だけだった。
王妃になれなくても、巫女にとって聖女宮から出られるということは、それだけで価値のあるものなのだ。
聖女宮では、全ての巫女が、己の生涯に一度、あるかないかのチャンスを待っている。
そのあるかないかのチャンスが、半年前にやってきた。
即位の儀式自体が、そうあるものではないが、さらに千人ほどいる巫女の、ただ一人に選ばれなければならない。
とてつもなく当たる確率の低いクジである。
が、そのクジを、思わぬ巫女が引き当てた。
渋い顔で聖女宮にやってきた最高神官が指名したのは、メリクという、まだ正式に神殿の洗礼も受けていない少女だった。
甘えるようにコアトルは、元のようにラスの足元に身体を下ろすと、顎を座った彼の膝に置く。
部屋の入り口に立ったまま、巫女はじっとその様子を見つめた。
巫女になる女子(おなご)は、通常トゥバンに選ばれた何らかの印が、身体のどこかにあるという。
産まれた赤子にその印があれば、親はすぐにその子を神殿に託さねばならない。
我が子可愛さに手元に置けば、トゥバンによる天罰があると恐れられているため、親は早々に子供を手放す。
そのため、巫女らは家族というものを知らずに育つのだ。
巫女や神官は、一度神殿に入ってしまえば、生涯独身で過ごさねばならない。
当然一生を神殿の中で終えるのだ。
が、巫女には僅かな希望がある。
新王の即位時、巫女の暮らす聖女宮の中から一人だけ、トゥバンに選ばれし巫女が、王のお側へと上がることが許されるのだ。
王の側に上がったからといって、王妃になれるわけではない。
生涯独身という決まりは、変わらない。
その決まりを破ったのは、ただ一人、ラスの父親である前王だけだった。
王妃になれなくても、巫女にとって聖女宮から出られるということは、それだけで価値のあるものなのだ。
聖女宮では、全ての巫女が、己の生涯に一度、あるかないかのチャンスを待っている。
そのあるかないかのチャンスが、半年前にやってきた。
即位の儀式自体が、そうあるものではないが、さらに千人ほどいる巫女の、ただ一人に選ばれなければならない。
とてつもなく当たる確率の低いクジである。
が、そのクジを、思わぬ巫女が引き当てた。
渋い顔で聖女宮にやってきた最高神官が指名したのは、メリクという、まだ正式に神殿の洗礼も受けていない少女だった。