エルタニン伝奇
「お兄様がいなくなったら、エルタニン王国はどうなります。お兄様には、まだお子は、いらっしゃいません」

涙に暮れるメリクに、サダルスウドは歩み寄った。
コアトルの傍から、彼女を見上げる。

「そなたがおるではないか」

「・・・・・・え?」

「ラス様を‘お兄様’と呼ぶように、そなたは紛れもなく、ラス様の・・・・・・現国王の妹じゃ。どういうことか、わかるか?」

メリクはラスの頭を抱きかかえたまま、茫然とした様子で、サダルスウドを見下ろす。

「ラス様のお命は、消えかかっているとはいえ、おそらくまだ持ちこたえよう。が、意識が戻るかは別問題。かなりの傷じゃ。出血も多い。このまま意識が戻らないことも、十分あり得る。確かにラス様には、お子はおらぬ。ご結婚もされておらぬし、私生児もおらぬ。普通であれば、王家の血は絶えるであろう。じゃが、ラス様には、妹がおられた。コアトルも一体おる。・・・・・・条件は、揃っておるよ」

条件というのは、‘世継ぎ’の条件だ。
王家の者であり、サファイアのコアトルを持つ。

「そんな・・・・・・。わたくしは、コアトルなど持っておりません。このコアトルは、お兄様のものであって、わたくしのコアトルでは、ありません」

「この際、誰のものか、ということは、関係ないのだ。ただサファイアのコアトルがおる、という事実だけでいい。それに、そもそもそなたにも、サファイアの瞳のコアトルが、おったではないか」
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