エルタニン伝奇
言いながら、サダルスウドは足元の塊を見やる。
すでに発光は弱くなり、サダクビアの屍自体、消えてなくなりそうなほど、小さくなっている。
浄化が済めば、サダクビアというものは、この世から完全に消え失せるのだ。

「・・・・・・産声を上げるのは、そなたのことだったのだな」

ぽつりと、サダルスウドが呟いた。

「そなたは今後、ラス様に代わり、王としてエルタニンを支えるのだ。何事も秘密裏に動かさねばならんが」

「そ、そんな! 無理です!」

「大丈夫。皆がついておる」

狼狽えるメリクに微笑み、サダルスウドは背後を振り返った。
すでに辺りは東の空から朝日が顔を出している。
その方角---サダルスウドが顔を向けたほうに、数人の人影が見えた。
逆光でよく見えないが、軍隊のようだ。
メリクは思わず、身体を硬くした。

「警戒せんでも大丈夫じゃ。近衛隊じゃよ」

サダルスウドの説明どおり、見覚えのある近衛隊長が駆け寄ってきた。

「王!」

赤いコアトルに縋り付き、隊長はメリクの腕の中のラスに呼びかけた。
が、やはりラスは、何の反応も示さない。
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