エルタニン伝奇
「何ということだ・・・・・・。トゥバンに事の成り行きを見せられても、この目で見るまでは信じなかったものを・・・・・・」

「トゥバンがお主らに、説明したか。お主らも、トゥバンに選ばれし、‘王の近衛隊’ということじゃな」

近衛隊長らは、今しがたここについたばかりであろうが、ここで起こったことを、すでに何らかの方法でトゥバンより見せられたのだろう。
もしかしたら、ここに無事辿り着いたのも、トゥバンが導いたからなのかもしれない。

トゥバンは、れっきとした神である。
おいそれと民の前に現れたり、その力を使ったりはしないものだが、今回は近衛隊全員に、その力を現したらしい。

ここで起こった事実を知らせないまま、メリクをラスの代わりに、垂簾(すいれん)政治を行うことは可能かもしれない。
が、さすがに長さに限界はあるだろう。
サダルスウドも高齢だし、一人でいつまでもメリクを補佐できるわけでもない。

それに、この事実を知っている者が、サダルスウドとメリクだけ、というのは、あらぬ誤解を生むだろう。
ラスが神官を毛嫌いしていたのは、神官の大半は権力欲の塊だからだ。
神殿関係者の二人の説明だけでは、作り話と思われても仕方ない。
垂簾政治を行うにしても、もっと事実を知る味方が必要である。

王家と神殿の最大の秘密とも言える事実を、国の主神であるトゥバンが自ら見せたということは、サダルスウドの言うとおり、近衛隊らはまさに‘トゥバンに選ばれた、王の補佐役’なのだ。

「とにかく、早急に手当をしましょう。息はある。望みは、捨てないことです」

隊長はそう言い、腕を伸ばしてラスをメリクから受け取ると、地面に寝かせて止血を始めた。
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