エルタニン伝奇
「・・・・・・っ」

ライナスの、本を持つ手が震える。

どれぐらい経ったのだろう。
気づけば持っている本の文字など、読めないぐらいに暗くなっている。

---何なんだ、これは---

ライナスは本を閉じて、その場に座り込んだ。
本の内容は、あまりに自分の記憶と違う。
考えをまとめようと、ライナスは目を閉じた。

記憶とは違うが、偶然というには共通点が多すぎる。
サダクビアという名は同じだし、ラス・アルハゲというのも同じだ。
エルタニン国王だし、氷に封じられていた姫君というのも一致している。
双子だったというのも同じだ。

ライナスは目を開け、再度本をめくった。
どこを見ても、やはり著者の詳しい情報はない。

「伝承の一つ、と考えるほうが、妥当だな」

何せ、自分は正真正銘、ラス・アルハゲの生まれ変わりなのだ。
サーラも氷の美姫そのものだし、何よりライナスには、前世の記憶がある。
存在すらも怪しい昔の誰かが書いた書物より、己の‘記憶’のほうが、よっぽど真実味があるというもの。

そうは思うが、どこか引っかかりを覚えながらも、ライナスは本を戸棚に戻し、王立図書館を後にした。



*****終わり****
< 120 / 121 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop