エルタニン伝奇
あっと思ったときには、かき集めた書類は再び宙を舞う。
派手に書類をぶちまけ、メリクは戸棚の前に転がった。
泣きたい気持ちで飛び起き、散らばった書類をもう一度かき集めていると、軽い足音と共に、ラスが戸棚に近づき、メリクが取れなかった書類を、ひょいと取った。
そのまま足元に散らばる書類にも手を伸ばす。
這いつくばって書類をかき集めていたメリクと、至近距離に近づき、メリクは慌てた。
ちょっとでも遠ざかろうと、集めた書類を抱いたまま、這うようにして、少しだけ移動したメリクの耳に、小さな呟きが聞こえた。
「ドジだな」
恐る恐る振り向くと、片膝をついたラスが、床に視線を落としたまま、書類をまとめている。
メリクは目を見開いた。
見間違いだろうか。
ラスの口角が、僅かに上がっていたような。
---笑った?---
ラスが笑ったところなど、見たことはない。
メリクに対する態度だけでなく、誰に対しても、ラスは心を開いていないのだ。
おそらくラスが唯一大事に思っているのは、あのコアトルだけだろう。
ラスと心を通わすことができるのは、あのコアトルだけなのだ。
周りの人間には、笑みさえ見せない。
若干十六にして、氷のようなこの王を、メリクは悲しい思いで、ずっと見てきたのだ。
派手に書類をぶちまけ、メリクは戸棚の前に転がった。
泣きたい気持ちで飛び起き、散らばった書類をもう一度かき集めていると、軽い足音と共に、ラスが戸棚に近づき、メリクが取れなかった書類を、ひょいと取った。
そのまま足元に散らばる書類にも手を伸ばす。
這いつくばって書類をかき集めていたメリクと、至近距離に近づき、メリクは慌てた。
ちょっとでも遠ざかろうと、集めた書類を抱いたまま、這うようにして、少しだけ移動したメリクの耳に、小さな呟きが聞こえた。
「ドジだな」
恐る恐る振り向くと、片膝をついたラスが、床に視線を落としたまま、書類をまとめている。
メリクは目を見開いた。
見間違いだろうか。
ラスの口角が、僅かに上がっていたような。
---笑った?---
ラスが笑ったところなど、見たことはない。
メリクに対する態度だけでなく、誰に対しても、ラスは心を開いていないのだ。
おそらくラスが唯一大事に思っているのは、あのコアトルだけだろう。
ラスと心を通わすことができるのは、あのコアトルだけなのだ。
周りの人間には、笑みさえ見せない。
若干十六にして、氷のようなこの王を、メリクは悲しい思いで、ずっと見てきたのだ。