エルタニン伝奇
第三章
およそ二ヶ月の準備期間を経て、ラスの率いるエルタニン軍は、大陸目指して国の港を出港した。

軍といっても、今はどこも大きな戦をしているわけではない。
要請内容にも、それほど大規模な軍は必要ないとあった。

他の国に漏れ聞こえないほどの、小さな小競り合い程度の争いに、他国の援軍を要請すること自体怪しいのだが、他国の手を借りざるを得ない、密やかな理由がある可能性もある。
ラスはとりあえず、三百人ほどの兵を選び、五隻の軍船に分乗して、大陸を目指すことにした。

意外だったのは、神殿の顧問とも言うべき、最老神官が同行していることだ。
サダルスウドというこの老神官は、今の最高神官の先代にあたる。

『サダルスウド』というのは、官職名である。
現場から退き、隠居状態だが、その立場は最高神官よりもさらに上になる。

「気候を考え、まずはルッカサに入り、そこから陸路でイヴァンへ渡ることに致します」

船室で側近から説明を受けつつ、ラスは机に広げられた地図を追う。
ルッカサは西大陸の南の、女王制の国だ。

「何故わざわざ、ルッカサに上陸するのだ。イヴァンは隣じゃないか。このまま海路でイヴァンに入ったほうが、早いのではないか?」

エルタニンから北上しているラスたちの船は、真っ直ぐ行けばイヴァンに着く。
ルッカサに行くには、少し西にずれる必要があるのだ。

「まだスィーマ第一期です。イヴァンの大部分は永久凍土と言われておりますので、温暖な気候に慣れている我らが、いきなりイヴァンに入るのは危険であろうということで、一旦ルッカサに入る航路を取っております」

ラスは差し出された巻物を手に取った。
上質な紙に、ビロードのリボンが巻かれている。
ルッカサ女王からの親書だ。

そこにはエルタニン軍の滞在を許可する旨が書かれている。

「わかった。ルッカサに立ち寄るからには、女王に挨拶せねばなるまい。できれば女王から、イヴァンの詳しい情報を伺いたいものだな」

親書を元のように戻し、ラスは部屋を後にした。
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