エルタニン伝奇
「お前は何故、イヴァンに行きたいのだ?」

気を紛らわすように、ラスは話題を変えた。
メリクも、ほっとしたように、だがちょっと困ったように口を開く。

「・・・・・・よくわからないのですが。行かなければ、と思うのです」

「ヴォルキーにも、チーリェフにも乗れないのにか? 大体、そんな軽装で行ったら、あっという間に凍死だぞ」

メリクは己の身体を見下ろした。

「それが、不思議なのですが、寒さは感じないのです。甲板でも言いましたけど、このままでも、全然平気で」

ラスは怪訝な顔で、メリクを見た。
確かに甲板でも、ラスは外套を着ていても風は冷たかったのに、メリクは平気そうだった。

「お前はやっぱり、エルタニンの民ではないのかな」

何となく、見てくれからしても、雪のようだ。
と言ってもラスは、雪など見たこともないが。

「でも、ラス様には・・・・・・」

言いかけて、メリクは口をつぐむ。
メリクにも、よくわからないことだ。
自分のことも、よくわからない。
記憶はないが、気持ちは残っている、とでも言うのだろうか。

ラスを見たとき、何か感じたのだ。
考えてみれば、今回イヴァンに行かなければ、という使命と同じような感覚。
自分はラスの元に、上がるべくして上がったとでもいう感覚。

ただそれは全て、感覚的なものでしかない。
ラスも同じ事を感じているとは限らないし、そんな可能性は、無きに等しい。
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